2023年をXRニュースで振り返る

12月に入り2023年も残りわずか。今年もXRは、国内外の社会・経済状況、また新たなデジタル技術ともリンクしながら、私たちに豊富な話題を提供してくれました。本年最後のコラムでは、当欄で取り上げた話題も振り返りつつ、XR関連ニュースを通して2023年を振り返ってみます。
社会課題解決にXRの新たな役割

今年は国際情勢の不安定さから、世界的に物価高や資源供給不安などが生じ、投資、消費には重荷となりました。さらに日本では円安が海外商品の価格高騰に拍車がかかり、XR関連のハイエンド製品に「価格的に手が届かない」と買い控えの声があった感は否めません。
ポジティブな話題としては、世界的にコロナ禍による行動制限がほぼ解除したことが挙げられます。対面での活動が復活し、街に人流が戻りました。行動制限下では、XR・メタバースが主に非対面の方策として語られることもありましたが、それはあくまでXRの限られた用途にすぎません。制限解除により、リアルとXRが共存、融合し、活用の幅が大きく広がりました。
本稿でもエンタメはもちろん、バーチャルオフィスでの事務、建設、物流、医療・介護などでのXR導入事例を紹介してきましたが、あらゆる業種における生産性向上、社会課題へのソリューションとしてXRが実力を示した一年になりました。
ハードはARにシフト?
経済的な不安もありながら、今年もXRゴーグルなどの製品リリースは相次ぎました。
1月にPICO 4 Enterprise、2月にソニーのPlayStation VR2、4月にHTCのVIVE XR Elite、8月にShiftallのMeganeX、そして11月にMeta Quest 3が発売。また、発売は2024年予定ですが、6月に発表されたAppleのVision Proも、そのコンセプトや機能が大いに注目されました。
最近の新製品の趨勢として、AppleとMetaが「MR(複合現実)」に力を入れていることに示されるように、「メタバース」的にバーチャル世界に完全没入するだけではなく、目の前の事物を見通しながらバーチャル情報を重ねて表示するARを強化していることが挙げられます。没入度や透過率を調整し、リアルとバーチャルを自由に行き来するような使い方が普及することになりそうです。
また、ビジネスユースに強みを持つデバイス、小型・軽量で付け心地を重視したデバイスなど、生活、仕事などリアルなシチュエーションでのXR利用を意識した機器のリリースが多かった印象があります。
周辺機器では、ソニーのモバイルモーションキャプチャー「mocopi」や、Shiftallのモーショントラッキングデバイス「HaritoraX ワイヤレス」など、身体の動作でアバターなどを操作する入力デバイスが多数リリース。ディスプレイやスピーカなど臨場感あふれる出力デバイスと車の両輪となり、人間がバーチャル世界に入り込む手段がさらに多様化しました。
生成AIで広がる可能性

今年、デジタル全体の最も大きな話題といえば生成AIでしょう。OpenAIのChatGPTのブームが先行する形で、GoogleのBardのほか、対話型、画像制作、翻訳や文章編集など、様々な強みを持つ生成AIが開発、ビッグテックとAI関連の新興企業との合従連衡の動きも盛んになりました。
この動きはXRにとっても非常に重要です。Metaは、前出のMeta Quest 3などXRデバイスとAIアシスタント「Meta AI」との連携を発表。今後、各社のXR関連機器と生成AIソフトウェアの連携が進んでいくことは間違いありません。XRと生成AIの融合は、3D画像、動画の自動生成、言語型・会話型AIを用いたコンテンツ制作、三次元アバターとの「人格的」コミュニケーションなど、予測が困難なほどの社会変化をもたらす可能性があり、今後も目が離せません。
XRが社会に深く入り込む
2023年のXR界隈を概観し感じられることは、社会状況と新技術が相まって、XRがリアル世界と別個なものではなく「リアルの中のバーチャル」「バーチャルの中のリアル」といった形の融合が進んだことでした。人間とXRの接点が増え、あらゆる人にバーチャル世界が身近に感じられる環境ができつつあります。本コラムでは、可能性をますます広げるXRの最前線に、これからも注目し続けたいと思います。