VR・メタバースは企業人事をどう変えるか?

クラウド上に「職場」を作るVRオフィスなど新しい働き方が生まれたことにより、従来と異なる人事制度の必要性が高まりつつあります。そこで今回はXRが採用や教育研修、評価など企業人事に及ぼす影響、将来展望について事例を交え考えてみます。
最適な企業組織構築への取り組み

「会社の理想の組織形態は?」は、答えのない永遠の問題です。機能別組織、事業別組織、マトリックス組織など、能率的に業務を遂行でき、かつ部署ごとに閉鎖せず、変化に強い組織の在り方が追求されています。
その点でVRオフィスは大きな可能性を秘めています。バーチャルな職場は、部門間の情報共有が行いやすく、業務に応じ機動的にチームを作ることも比較的容易。もちろん支社・支店間の空間的制約もないため、従来組織の欠点を補完する存在になりえます。社内のメンバーシップのみならず、外部企業、フリーランスなどと業務に合わせ最適なチームを組み仕事をする「ジョブ型」の業務とも親和性が高いものといえます。
現在、社内外の多様な人材が集まるチーム・サークルをメタバース上に作り、必要に応じ社員が複線的に所属する制度を作ったり、経営直轄で全社的なメタバースの活用法を考える組織を設置したりといった、XRを組織構築に生かす試みが各社で行われています。
メタバース採用の意外な効用

人事の最重要なシーンの一つに採用があります。すでにメタバースでの会社説明会が数多く開催されていることはご存じの方も多いでしょう。求職者がビジターアカウントでVRオフィス内を見学し、業務のプロセスを学んだり、社員に質問したりできる機会を設けている会社もあります。
もう一つ、興味深い事例として紹介したいのが、面接官と求職者がVRゴーグルを使用し行う「メタバース面接」です。
メタバース面接は、全国からリモートで参加できるメリットだけではなく、VRならではの積極的な意義もあります。ある企業では面接にアバターとハンドルネームのみで参加可能とし、年齢やジェンダー、学歴などの入力を不要にしました。それによりフィルターをかけずに業務に必要なスキルのみに焦点を当て審査できるようになったとのこと。バーチャルであることで、人材の隠れたスキルに光が当たる可能性もあるのです。
進む教育研修へのVR活用

現在、人事関連でVRがすでに広く普及しているのが教育研修の分野です。3Dの映像や音声がリンクし、リアルタイムでコミュニケーションをとりながら学ぶことができるため、とくに製造や建設など技術分野、人と人が接する医療や介護、接客などの業務習得で数多く導入されています。今後もあらゆる業種で、XRでの教育研修の導入が大きく進展していくことは間違いないでしょう。
新たな人事評価制度が生まれる?
「ジョブ型」に代表される新たな働き方を推進する上で課題となるのが、多様な立場で働く人の実績をいかに公正に査定・評価するか、ということ。働く場所や雇用形態を限定しない世界共通の評価基準「グローバル・ジョブ・グレード」の導入を検討する企業も増えています。
VR空間での仕事は、評価制度の在り方にも重要な変化を起こすはずです。若干抽象的ではありますが、メタバース上の組織で働く場合、働き手がこれまで行った業務、所属や人とのつながり、職能、職責などは分析可能なデータとして蓄積されやすくなります。まるでRPGのレベルのように、働く人の実績を「見える化」し、給与査定や昇進、配属に活用できるシステムが開発、実用化されることも予測されます。
VRが人間関係を組み替える
人事の三要素は「採用・評価・教育」といわれますが、VRはそのすべての要素で重要な役割を担いえる存在です。それはまさにXRが人の可能性、人と人との関係そのものを大きく変化させるものであるからに他なりません。
いつの時代も組織をつくるのは人です。リアルとバーチャル、双方の強みをいかし、社員がいきいきと働き、生産性を高める人事体制がつくることが、VRを真にイノベーティブなものにするための条件になるのかもしれません。