企業でのAR導入事例とその可能性

現実世界にバーチャルな映像や音声などを重ねて示すAR(拡張現実)。この新技術がビジネスにおいて力を発揮するのは、よく話題となるゲームなどのエンタメ分野だけではありません。今回は様々な業種のARによる変革の可能性について考えてみましょう。
ARが「ものづくり」を変える

ゲーム「ポケモンGO」のように、目の前の空間に、映像や音声などのデジタル情報を重ね合わせるAR技術は、多様な業種に利用可能性があります。
まず挙げられるのが製造業です。例えば、3D CADで作った三次元の設計データを、離れた場所で、その場にあるかのようにリアルな形状や大きさで示すことができれば、営業から設計、生産までの情報共有の精度向上が望めます。
また、製造機器に貼ったコードを読み取って、作業手順やマニュアルを目の前に表示することで、非熟練者の作業能率アップ、教育研修にも力を発揮します。部材のコードから受注・納品データ、作業工程などを確認することで、在庫や仕掛品の管理などもスムーズに行うことができるでしょう。
なおスマートグラスを使用し、これらの一連の業務を手作業を行いながら進められるようにすることが、製造業にとって極めて有益であることは言うまでもありません。
物流の「見える化」で事業変革

コードを読み取り情報を目の前に表示する機能が大きく力を発揮する業種として、倉庫・物流分野があります。特に倉庫から必要な収納物を取り出すピッキング、出荷作業はARにより大きな効率アップが望める業務です。
例えば、受注の伝票に記載されたコードを読み取り、倉庫内の該当の物がある場所、配送先のセンターなどの情報を確認、スマートグラスの画面で行う作業を確認できる機能などが考えられます。運輸物流会社だけではなく、店舗やECなど多くの商品を扱う小売業者にも利便性の高いシステムとなるでしょう。
親和性の高い建設・不動産事業

建設業、不動産業は、空間に形あるものを作る仕事であり、ARと親和性の高い業種と言えます。
施工前は、建物などの完成イメージを、実際に建てる予定地に重ねて表示。施工中は、作業者が見ている映像を三次元で共有し、監督者の指示を仰ぎ、施工後は建物の中に設備などを置いた状態をシミュレーションし、建設後の入居者、テナント募集まで幅広く利用できます。
ビルやトンネル、橋梁などの保守・点検では、スマートグラスを付けた作業員が、画面に移るチェック項目に沿って点検作業を行ったり、遠隔地で映像共有する熟練者が危険部位を指摘したり、過去に点検した際の画像を重ねて表示したりといった機能により、点検作業の効率性、生産性を高められるでしょう。
ARであらゆるビジネスに変革が?
今回のコラムでは、製造業や運輸業、建設業といった「もの」を扱う業種にスポットを当てましたが、離れた場所にいる人の目の前に、立体的な「もの」をリアルに表示する技術は汎用性が高いと言えるでしょう。WEB会議やリモートワークなどとの関連もあり、多くの方の日々の業務に関わりが見つかるのではないでしょうか。ARによる業務改善の可能性ある業種は「全業種」といっても過言ではないのです。