芸術の秋 VRで世界のアートを愉しむ

多彩な視覚表現を可能とするVRが力を発揮する分野が「アート」。世界中の美術館で、所蔵作品の3Dデータ化、VR空間での展示が進んでいます。今回は世界の有名美術館のVR導入の事例を見ながら、VRとアートの関係、可能性を考えてみましょう。
Googleの先進的試み
美術作品を3D画像で公開する試みとして、まず取り上げたいのがGoogleの提供する『Google Arts & Culture』です。同社は2000以上のパートナー・ミュージアムと連携。Googleストリートビューで美術館の中まで入り、作品を3D画像で鑑賞する機能を提供しています。
『Google Arts & Culture』は他にも、バーチャル空間で世界中に点在するゴッホやフェルメールらの作品を集めて展示する「Pocket Gallery」、ダヴィンチ、ムンク、北斎ら有名画家のタッチで写真を加工する「Art Transfer」など、VR/ARの技術を活用した多彩な機能を備えています。
進む有名美術館のVR化

美術館独自で収蔵作品のVR化に取り組む動きも盛んです。
注目はオランダ・デンハーグのマウリッツハイス美術館。フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』『デルフト眺望』、レンブラント『自画像』などの傑作を有する同美術館は2020年、コロナ禍による一時閉館を機にデジタル化を推進。館内の全展示室をギガピクセルの高画質で撮影、360度パノラマで鑑賞可能としました。
全館をオンラインで公開する施設はあまり多くはありませんが、館内の一部展示を3D画像で提供する試みは、多くの美術館で行われています。たとえば、イタリア・ローマ市内のヴァチカン美術館では、施設内にあるシスティーナ礼拝堂の天井画、ミケランジェロ『アダムの創造』『最後の審判』をはじめ、一部展示をバーチャルツアーで公開しています。
そして世界最大級の美術館であるフランス・パリのルーブル美術館。同美術館は2021年3月に、収蔵する48万点の作品をオンラインで公開し話題となりましたが、3Dによるオンラインビューイングにも取り組んでおり、現在、過去に行われた企画展のいくつかがバーチャルツアーで鑑賞可能となっています。
メタバースに広がる展示スペース

美術館は作品そのものだけではなく、展示室の内装や他作品との並びの中で鑑賞する楽しみがあります。VRは、その魅力を追体験できるのがメリットです。また、リアル空間を再現するだけではなく、物理的な制約がないVR空間だからこそできることもあります。
例えば、多くの美術館には常設展示されていない大量の所蔵作品があり、バーチャル空間ならこれらの埋もれた作品を展示しやすく、新たな魅力を発見するきっかけになります。世界中の複数の美術館がコラボし、バーチャル空間内に所蔵作品を展示することも考えられるでしょう。
展示する作品の種類も自由自在です。作品そのものがデジタルデータであるCGと古典作品を並べて展示したり、鑑賞している作品に合わせて、音や視覚表現を付け加えたりといったことも可能ですとなります。今後、バーチャル空間だけで開催されるコンセプチュアルな企画展が増えていくのではないでしょうか。
メタバース展示会のカギはNFT
最後に、メタバース空間での展示でカギとなる技術として、NFTにも触れておくべきでしょう。ブロックチェーンによりデジタルデータの唯一性を担保するNFTを利用したアートは、数十億円の高額で取引される事例が大きな話題となっています。メタバース空間で開催され、世界中の参加者の注目を浴びる展示会が生まれれば、NFTアートのさらなる付加価値になることは想像に難くありません。
アートの歴史は、メディアの変化とともにあります。VRの発展が、アーティストやキュレーターの想像力を刺激し、新たな表現が生まれてくることに期待したいところです。